腎細胞癌の犬の1例
動物がんクリニック東京 池田雄太はじめに
犬の腎臓腫瘍は86%が悪性であり、腎細胞癌が最も多く、25%が間葉系腫瘍、5%が腎芽腫である。症状としては、体重減少、頻尿、活動性低下、嘔吐、食欲不振などの非特異的症状が多い。尿検査では血尿が50-100%の症例に認められ、その他多血症、肥大性骨症、高カルシウム血症などが臨床検査で認められる。今回大型の腎細胞癌に対して外科治療を行い良好に経過している犬の1例を報告する。
症例
犬 ミニチュアダックスフント 7歳 メス 避妊済み 主訴:7日前に腰部の痛みがあり動物病院を受診。CTを含む諸検査にて左の腎臓腫瘤を認めた。
既往歴:特になし
体重5.8kg(BCS3/5) 体温38.7℃ 心拍数120回/分 呼吸数30回/分 一般状態 :活動性100% 食欲100% 意識レベル 正常 一般身体検査 :左中央腹部に腫瘤を触知できる 血液化学検査:CRP値がやや上昇 その他異常所見なし 血液凝固系検査:TAT含め正常値 胸部X線検査:特記すべき異常所見なし 腹部CT検査:左の腎臓では腎尾側領域に不正な腫瘤を認める。6.8×6.5×4.5㎝で辺縁は一部で不整であり、造影後120秒で尿管から膀胱への排泄を認める。肺・椎骨を含む諸臓器への転移所見は認められない。(図1)
診断
腎細胞癌うたがい
治療
第10病日手術を実施した。胸骨剣状突起から恥骨前縁までの腹部正中切開を行い左腎臓腫瘤へアプローチした。大網や腸管膜などの癒着を処理したのちに常法通り腎臓を後腹膜から剥離した。側腹部後腹膜から左腎臓を脱転し、腎門部に流入する腎動脈・静脈をそれぞれ結紮離断した。その後尿管を後腹膜より剥離し、膀胱近位で結紮離断し腎臓を摘出した。(図2-4) 術後の経過は良好であり、術後3日目に退院した。
病理診断
腎細胞癌
考察
腎細胞癌は転移率の高い腫瘍の一つであり、診断時に15-50%で肺転移が認められ、死亡時では約70%に肺転移が認められると報告されている。転移部位は肺、リンパ節、肝臓、皮膚、骨など様々な臓器が報告されている。腎細胞癌による血液検査所見として、貧血が多く認められるが、稀な腫瘍随伴症候群として二次性多血症がある。これは腎細胞癌からエリスロポエチンが過剰に産生され二次的に赤血球増加を起こしPCVが60-70%程度に増加する症状である。治療は外科摘出が第1選択であり、対側の腎機能が正常であることを評価したうえで早期に摘出するべきである。本症例のようにCT撮影は外科支援目的だけではなく、造影検査による腎排泄能を評価できることから、腎機能の評価法としても有効である。腎細胞癌の外科摘出後の予後は、ある報告では中央値16ヵ月と言われており、また病理学的に有糸分裂指数が10未満では1184日、10-30で452日、30以上で147日というように有意差が報告されている。また腎細胞癌における術後の化学療法の有効性は明らかにはなっていない。 他の腹腔内腫瘍と同様に腎臓腫瘍も外見からは見つけることができない腫瘍の一つである、また症状も非特異的であり頻尿や血尿が持続する場合には早期に動物病院で検診を受けること、なおかつシニア期に入ったら「がん検診」などの健康診断を受けることが大切である。